「ハルトー!」「ハルトさん!!」「できたよ!」「ハルト!」「褒めてー!」「ハルト!」「見て!」「ハルトー!」「ハルトさん!!」
リュカの声だけ聞こえながら、目の前にドッスンドッスンとロット箱が積み上がる。
リュカの姿は見えない。嘘。1匹だけ10cmちょっとのミニリュカが俺に飛び込んできた。すぐに消えてしまったけど……それだけ。ただそれだけで、リュカの声が聞こえたと思ったら巨大な箱が積み上がる異様な光景を目の当たりにして俺は感嘆と声を漏らした……。成功したんだな!リュカ!!
でも不安は拭えない。本体らしきリュカの姿が見えないからだ。
代償として消えたとか、エネルギー不足で戻れないとか……そんなことはないよな。。。頼む。頼むから無事にちゃんと戻って来てくれ…!!
胃がキリキリするほど祈りながら急に飛び出してくるロットを数える。
18、19、20……20個目の箱が置かれた後に急に大きな影が差し込んだ。俺は咄嗟に上を向く。
「ただいま戻りました!ハルトさん!!!」
口調は大人だけどやってる行為と見た目は子供の時と全く変わってないなお前…
裂き過ぎたのか出会った頃と同じぐらいの背丈でダボダボの服を着て俺の懐に飛んでくるリュカが居た。これにも俺はこんな身体だからとか言ってる暇はない。「おかえり」とただ1言返事して、何十年かぶりに昔みたいに受け止めてそのままぎゅっとされた。
__________
「あの、ハルトさん…全部なかったことにするのやめませんか?」
「は?」
26万個のフィギュアを前にリュカがとんでもないことを言い出した。
「いや…あの、人類救うのも人口を戻すのもお兄ちゃ…いえ、兄に会える様になるのもすごく嬉しいんですけど、なかったことにするってその。俺や、今までのハルトさんの行いを否定している様で…なんかいやだ」
「レウドルーラの半数以上死んでるんだぞ。否定すべき行いだろ。」
「違うんです…そうじゃないんです。確かに…その、結果だけ見たら最悪なのかもしれないんですけれど、過程っていうか…その、過去のハルトさんが救われたのも、俺が救われたのも嘘じゃないし、その事実は無くなって欲しくないんです……」
「…………。」
「こんな状況で今の方がいいとか言ってる俺の方が間違ってるとは思う。でも全部を全部否定はして欲しくない…です。」
「………ここに、26万個のフィギュアがあるだろ?」
「え? あ、はい。」
「この紙による被害を止めるにはAの消費素材を使い切って、公式を成り立たせなくする必要があるんだ。ここまではいいか?」
「……はい」
「Aの消費素材を使い切ったとして、人々の記憶に残ってる物は消えない。奪った奪われた殺された止めれなかった救えなかった…とかたとえ元の姿に戻ったとしても、死んだ人間が生き返ったとしても記憶や感情は残り続ける。レウドルーラの半数死んでるんだから嫌な記憶を持ってる人の方が多いと容易に推測できる。ここまでもいいか?」
「……はい」
「従って、記憶はない方がいい。なかったことにした方が良いと結論付けられる」
「……っ。いやだああああああ!!!!うわぁあああああん!!!!やだあああああ!!!ハルトさんの非道!!!!最低!!!泣きますよ!?俺、泣きますよ!!!!”俺は救われた”とか”過去の俺も救って欲しいんだ”って俺には言ったのにそれを否定するなんて………何より、自分を軽く扱いすぎてる!!!リュカはハルトのこと大好きなのにハルトはハルトが好きじゃないの嫌ぁああ!!ハルトのバカ!もう嫌い!!!」
「……ッ!!! ちょっ。リュカ!!!待て!!!」
「待つけど!!待ちますけど!!!ハルトがハルトの考え改めないとリュカこの26万個のフィギュア全て燃やすもん!! 昔、机燃やして遊んじゃダメだろ!ってリュカハルトに怒られて怖かったけどその26万個フィギュアバージョンでやるもん!!ハルトが非道ならリュカも非道になるもん!!!ばーかばーかハルトのばーか!!!」
「わかった。わかったから、頼むから落ち着いてくれ。考えを改めよう。ってか、考え直すから少し時間をくれ。あと、その幼い容姿で幼い言葉遣いでボロクソ言われるのはちょっと心に響くからやめてくれ……」
「言葉でわかってくれなかったハルトが悪いんだからね!! わかった。リュカとりあえず落ち着いた。落ち着くもん……無理、落ち着けない。やだ、どうしよう。もう怖くてやだ。ハルトとの思い出が消えちゃうのやだああああ!!!ハルトのこと忘れたくない!!!もう無理。やだ。立てない。ぎゅっとして。こっち来てぎゅってして」
「真剣に、どう感情と折り合いつければいいかとか、この紙の可能性についてとか、どう転ぶのが一番最悪なのかとか、考えてるから……ぎゅっとするのはまた後でな。」
「うわあああああん!!!!」
こうして、俺たちは必要な材料が全て揃った状態であるというのに一時停戦を強いられた。
くっそ……本当にずるいな。お前…。
__________
「おーい。リュカ! あれ、リュカさん??? 俺は結論出せたけどお前は少しは落ち着いたか?」
「ううん、ハルトぎゅっとして」
「……また縮んだ?」
「うん、ミニリュカともう会えなくなるジャンパーのこのフィギュアと遊んでた」
「そうか……」
「それでハルトどうするの? どうすることに決めたの?」
「この紙に関することだけ全て無かったことにしようと思うんだ。書く公式は”因果逆行”対象はやっぱり俺やお前も含めた26万人分。………でもわんちゃん、お前は対象として弾かれる……いやわかんねぇ。普通に読めない。過去改変とかそういうほぼ確定でどうにかなりそうなもの選ばせなかったお前が悪いんだからな!」
「……」
「……いや違う。俺、これしか選べなかったんだ。……俺さ、この世界に来て誰かと一緒じゃないと意味を持たないものを知ったんだ。だから、もし忘れてたら、もう一度俺に桃ノ木の願いを叶えさせて…いや思い出させて欲しい」
「リュカがハルトの桃ノ木になるの?」
「ああ。俺もお前の桃ノ木になりたいから、忘れてたら思い出させてくれ。お前に自分を大切に扱えって言われてちょっと欲が出たよ。やっぱ俺は肯定してくれたお前に救われたいし、関わって良かったと思えるこの気持ちを忘れたくないから、俺はもう一度お前と関わりたい。俺に関わって来て欲しい。」
「ハルトさんの考え方的に、関わった時点で救いになるなら俺をほっとかないでぎゅっとしてくださいよ。……まぁ結論が出て良かったです。もう書くんですよね?」
「ああ」
軽く俺は返事を返し、ポケットから星型のチャームのついたペンを出した。
紙を取り出し、A(スカイジャンパーのミニミニフィギュア)× B(記憶)= C(因果逆行)と最後の行の空欄を埋めた。書いてる最中に、「それ…そのペン」とリュカがぼやいたのを聞き逃せなかった。
「ああ。このペン…お前、無くしただろ?」
「……はい」
「やっぱりそうか。俺、このペンお前が……俺から紙を盗んで自販機の前で1行目埋めた後に落として行ったの知ってたんだ。そしてずっと持ってた。だからこれ、お前のペンなんだ。ほら」
「……確かに。このバネの押し込みにくさとか。。。俺のかもしれません。でも、どうして?」
「……殴りたかったから」
「え?」
「俺、レウドルーラに飛ばされて、クソガキに出会って1行目落書きで埋められて……それがすごく嫌でさ。いつか会えたらこの紙について問い詰めて殴って返そうと思ってたんだ。それが目標だった。そんな目標があったからお前に出会えたし、お前の言う通り今までの行いも悪いことばかりじゃないと今になって思い出せたんだよ。だから、殴るのはやめる。返すから受け取ってくれ。爪とかで随分傷つけてしまって塗装とか…その、ちょっと禿げててごめんな」
「俺の中では3日前に無くしたものが、ハルトさんは何十年も持っててくれてた…??すごい、ボロボロだ。ほんとどういうことですかっ……」
「そうだよな。混乱するよな。ごめんな……そろそろ因果逆行発動しようと思うが…その、大丈夫?やってもいいか?」
「えっ、あ。はい。いきなりですね??? もちろんいいですよ!!」
俺はスカイジャンパーのミニミニフィギュアを1つ拾ってリュカの目の前に置いた。
「このB欄に書いた記憶がどこまでで誰のものまで影響するかわからない。でも、お前は原種だからか知らんけど、どれだけ瞬間移動しても異形化しなかったからさ……こんなに元凶の近くにいたのに影響されなかったから対象外にされる可能性が高い。簡単に言えば、このフィギュアが無くなってなかったら、お前の勝ちだ。もう好きにしろ。あとそうだな。予想が当たってたらだけど、因果逆行って書いたからわんちゃん俺の姿も元に戻る。兄も戻る。レウドルーラの人口がリリル12の12-27……つまり、俺がここに来た時点のものになるだろうよ。知らんけど。……ま、とりあえず願おうぜ!」
「うん!!」
リュカの合意を見守ってから、俺はこの女神から貰った紙を燃やした。
それからのことは…よく覚えていない。気づいたらダボダボの服を着たクソガキにぎゅっとされていた。
__________
ハルトさんが公式が書かれた紙を燃やした。
燃やしてる最中に周りを取り囲んでいるスカイジャンパーのミニミニフィギュアがありえないスピードで消えていく。26万個あるはずのに山のように積まれてたため雪崩を起こして遊べてた(ハルトさんに知られたら危険だろ!窒息したらどうするんだ!!!みたいに怒られるので絶対に言わないでください)おもちゃの山が一瞬のうちに消えていく。ギチギチだった空間が寂しくなる。
ポツンと、俺とハルトさんだけ残された空間でハルトさんが倒れた。咄嗟に駆け寄る。
「ッ…!! ああっ!!!」
俺は声にならない叫びを漏らした。ハルトさんの姿が元に戻ってたからだ。
信じられなくて指を入れ口をこじ開ける。牙がないっ…!! 体制を変え手も引っ張り出す。爪も鋭くなく、四角形のゴツゴツとした一般的な人間の爪だ。腕も変な形じゃない!普通の腕だ。嬉しくて、俺は、小さい頃よくやられてたように頭をくしゃくしゃとハルトさんのことを撫でた。ツノとかそういう角ばった物に当たることなく撫でらかに通った。意識を失っていることをいいことに思いっきりぎゅっとした。
「うわん…よかった。ハルト…いや。ハルトさん良かったです…」
とりあえず俺はハルトさんを床に置き、現状を把握するために辺りを見回す。足元にころんと転がってたフィギュア以外、ジャンパーのフィギュアは無くなってた。見間違いかもしれないからコンピューターにも聞いた。
「現在、この世界にあるスカイジャンパーのミニミニフィギュアの数は1個です。」
無機質な回答が帰って来た。
「リュカ?」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえて来た。
振り返ってみたら知らない人がたくさん家の中にいた。フィギュアの倉庫との関係でとても大きい家…というか要塞都市みたいなハルトのお家にハルト以外の人がたくさんいてリュカは頭が真っ白になった。
でも、多分。原因はそれだけじゃなかった。
「うっ…あっ。。お兄ちゃん!!!!」
駆け寄って抱きついた。お兄ちゃん。お兄ちゃんがぁああ…うわああああああってなった。
「ね。落ち着こ。リュカ。息吸える?深呼吸できる?相当怖い目にあったんだね?大丈夫??ちょっと目を離し隙にどうしたの?ここはどこ?」…ととても困惑していた。お兄ちゃん困ってたけどリュカはそれはそれで嬉しかった。お兄ちゃんがお兄ちゃんしててリュカ嬉しい。リュカはちゃんと息が整うまでお兄ちゃんにぎゅっとされて思いっきり甘えた。お兄ちゃんのおてては少し冷たくてとても心地よかった。
「リュカ、お兄ちゃんに合わせたい人がいるの!! 来て!」
お兄ちゃんの手を引っ張ってハルトの元へ向かった。
もう目覚めてて座ってボケっとしていたハルトに勢いよく突撃してぎゅっとしたら「ふざけんなガキ。あっちへ行け」ってあしらわれた。
「やだあっち行かない。ねぇハルト見て!!!お兄ちゃんに会えたの!!!」
「あー。そうか、良かったな…それで?」
「見て欲しい!!お兄ちゃん!!!」
「あ、兄…でーす」
「お前、お兄ちゃん困らせんなよ。お兄ちゃん困ってるだろうが!!!」
「やだやだ。たくさん困らせたいしリュカもうどうしていいかわかんない!!!たくさんハルトに見て欲しい!!!それにリュカ、ハルトやお兄ちゃんの1言1句が嬉しいの!!!」
「あー。うっさ。意味わかんねぇ…これだからガキは嫌いなんだよ。でもまぁ、なんか、良かったなって思うよ。知らんけどさ。お前が元気で、兄に会えて本当に良かったと、なんか俺思うよ」
「本当!?」
「ハルト、リュカに嬉しいって思ってる!?」
「ああ」
「ハルト、リュカのこと好き!?」
「いいや、好きではない。なんで出会って数分しかたってない初めましてのクソガキのこと好きになってると思うんだよ……」
「うわぁああん!!! じゃぁじゃぁハルト!!お腹すかない?」
「まぁ…すいてないことはないが…どうしてそんなことを聞くんだ?」
「じゃぁさ。お兄ちゃんと、リュカと、お外に出てご飯食べて買い物して、一緒の空間を味わお!リュカハルトともう一回ご飯食べにお外でたいって桃ノ木にお願いしてたの!ハルトの願いといっしょー!!!」
「……ちょっと待て、クソガキ。なぜそれを?」
クソガキがにやりと笑って手招きした。何やらこっそり俺に伝えたいことがあるらしい。
俺はしゃがんでクソガキの顔に耳を近づけた。
「俺、ハルトさんと約束したんです。願いを叶えさせてください。それが俺の望みでもあるので!」
「は…???」と俺が硬直している前にクソガキは元に戻った。にっこり笑い俺に微笑む。
そして「はやくいこー!」って兄の手を引き俺の背中を押し、外に連れ出した。
「ハルトさんとふわふわのパンをお外でもう一度食べたいと俺、願ってたんです。」って聞こえたような気がしたが気のせいかもしれない。
__________
ここは、人口26万人のレウドルーラという小さな惑星だ。
地球で死んだ俺は、よくわかんないけどこの星に転生して来てた。女神との会話はよく覚えてない。ただ、目覚めた時にはリュカというクソガキにぎゅっとされ、そのまま兄と一緒に居座られ、買い物したりご飯作ったり、本当に何気ない日々を一緒に過ごしている。
病室にいた頃では信じられないぐらい騒がしい日々を過ごしているのだが…まぁ、うるさいのも悪くないかもしれない。
今日も天気がいいからクソガキたちは俺を叩き起こして、「お外いこー」って言ってくるのだろう。されっぱなしなのも癪だから今日は俺から誘ってみるかな。
