第7話 ハルトさん!

懐かしい街並みに思い出が揺らぐ。
シャッターもなく、どの店も開いていて、今よりも活気づいた過去の……今見えている景色に言葉にならない気持ちが込み上げてくる。

リリル12の12-27。9時30分前。
店から流れる軽快なミュージック、肌寒い風に当てられ街路樹が揺らぎ、飲食店から香ばしい匂いが立ち上がる……そんな中、子供の頃の恩人の姿を見つけた。
牙やツノも生えていない、獣の様な姿にもなっていない、腕も手も奇形していない、普通のそこら辺の人々と変わらない形をしたハルトさんだった。
不注意にも紙を見ながら歩いている。今よりも全然警戒心が薄いと言うか…なんていうかハルトさんらしくない。昔から怖かったし、変わってないと思ってたけど、そうじゃなかったかもしれない。無邪気そうにワクワクしながら街を歩くハルトさんの姿に驚きとか悲しさとか悔しさとか嬉しさとかごちゃごちゃしすぎてわからない感情が押し寄せてくる。

(過去の俺を救って欲しいとか言ってたけれど、今の方が救われてそうじゃないですか……)

そう思ってしまい、こんな楽しそうなハルトさんから紙を奪ってしまうのを躊躇してしまう。見つけた瞬間奪えってハルトさん言ってたのに……

だって、俺が紙を奪ったら……同じ未来を辿ったら、人間やめて、たくさんの人を殺して、レウドルーラが滅びそうなのは全て俺の責任なんだ!とか言って、今。俺の目に見えているハルトさんより……幾分も辛そうな顔を見せる。俺のよく知るハルトさんになっちゃうかもしれないってこと……なんですよね……??? そんなの嫌じゃないですか……。

スカイジャンパーもこの世界を守るには過去へ行き博士を説得するしかないとか何とか言ってた。俺はあの、ハルトさんに慰めて貰いながらどうにか見た。最悪な…救われなかった最終回を思い出した。めちゃくちゃギャン泣きしちゃったからハルトさんすげぇ困ってたなぁ……懐かしいや。爪立ててしまって傷つけてしまうのが嫌だからって全然触ってくれなくなったあの人が、異形化する前の時の様に頭をくしゃくしゃって無言で撫でて慰めてくれたからとても記憶に残ってる。

あー。もういいや。ハルトさんは救われたって言ってたし、俺は今のハルトさんを信じたいからもう難しいこと考えるのやめよ。
俺の頭じゃこれ以上はよくわかんないし、色々考えると心がぎゅっとなって動けなくなりそうだったから、ハルトさんから紙を奪うことだけに集中して俺は走り出すことにした。

全力で走る。体が小さいからその分足をたくさん動かして、あのハルトさんから紙を奪った後も逃げ切れる様に思いっきり走った。ハルトさんが避けようと左に逸れる。構わない。
ただ、手に持った紙だけを見て、紙だけを狙って。奪って駆け出した。

「あっ!!ちょっと待て!!!コラ!!!」

後ろからハルトさんの声が聞こえる。
最近はあまり構ってくれなかった…っていうかずっと疲れた表情をしていて元気がなかったし、俺も大人になってから怒られる様なことをしなくなったから、ハルトさんの怒声が嬉しい。今より元気なのに昔の方が体力のないってどういうことですかっ……反応速度とか足の速さとか俺のよく知る今のハルトさんより劣ってるけど、今より声に張りがあって安心する。子供の頃みたいだ。

俺は、ハルトさんが迷うことのない様に、見失うことがない様に、少し速度を落としながらおもちゃ屋へ向かった。

__________

「なぁリュカ、これ見ろよ。この草やばくね?俺、見つけた時笑っちゃってさぁ__」
「ハルトたくさん飲むからこのコップオススメするー!」「……気持ちは嬉しいんだけどな。悪ぃ流石にダサくて無理」「うわぁああん!」
「ここのパン美味かったよなぁ…」「ふわふわの甘いやつー!!リュカも好きー!!」「また来ようぜ。リュカ!」「うん!」
「このペンハルトとお揃いだから欲しいー!」「そういえばハルトさん。なんでそんな子供っぽいペン使ってるんですか?」「……いつか絶対に殴ると決めたからかな」「えっ…?」
「ハルトさん!要望通り代わりに服買ってきました!」「………明確にどんなのが良いか言わなかった俺も悪いけどさ。ふざけ……あー。いや。ふざけてるわけではないのか、はぁ…戻して来なさい」「そんなぁあああ!!」
「ハルトー!テンイもカッコいいよね!!リュカ2話と16話と52話と47話とあと…今やってるところ好きー! ハルトは?」「……80話以上やってるクソ長ぇ作品見ろと言ってますか?リュカさん???」

あの時ハルトの無言の圧ちょっと怖かったなぁ。。。
思い出しながら俺はフッと息が漏れ微笑んだ。どうしよう、懐かしい街並みだからかな?走って通り過ぎてるだけなのに色々思い出して苦しい。思い返せば一緒に歩けてたのって子供の時だけじゃないか。俺が大人になったぐらいの時からハルトさんの爪とか歯とかが伸びる様になったし、ハルトさんそれを怖がって外に出たくなくなっちゃったから、基本俺が買い出しに行ってただけで街で一緒の空間を楽しむことはできなくなってたことに今更ながら知る。
ハルトさんの願い…”誰かとこうしてご飯食べたり買い物したり、一緒の空間を味わいたい”って願いがある時からぴたりと叶わなくなってたんだってことに俺は気づきたくなかった。気づかないで今まで一緒にいたという事実が苦しい。この事実に気づかないでいたかった。

「いた!! あんなところに!」

やばい。遠くからハルトさんの声が聞こえる!
俺は急いでペンを走らせ一番上の行の空欄を埋めた。

「おい!!!コラ!!やめろ!!!」

さっきよりも明らかに近くから聞こえるハルトさんの声に俺はびっくりして紙を手放してった。咄嗟に目で追う。はらりと舞った先にハルトさんの姿が見えた。

多分、誰かの人生に関われて嬉しかったってことなんだろうなぁ。。。病室で人生が終わった人の孤独というか切望っていうかなんていうか…俺は嬉しかった思い出を思い出した時に、いろんな意味を与えてくれて兄を救うために動いてくれたハルトさんのことを思い出して、
やっとハルトさんが救いとか願いとか言ってたことの意味がわかった。わかってしまった。
救われたのは俺の方でしたよ。

でも、いや。だからこそ。今はここまでってことなんですよね。ハルトさん。
あと数mで触れ合える距離であるのに、俺は触れられない様に背を向けて走り出した。

追われない様に一応撒いて走ったのだが、ハルトさんは追ってこなかった。

__________

俺は、おもちゃ屋さんへ戻り木陰からそっと中の様子を伺った。
ハルトさんが消える。俺は未来から持って来たスカイジャンパーのミニミニフィギュアを握り瞬間移動が使えるか確認する。飛べた!やった!!!この世界の未来のことはわからないけれど、これで少なからずA欄はジャンパーで統一されたってことですよね!?ハルトさん!!

あ。ハルトさんがおもちゃ屋に戻って来た。
離れるのが惜しすぎて、俺はハルトさんが俺の視界から消えるまでずっと見守ってた。

(どんな結果であろうとも、誰かのことを気にかけてしまった時点でその人の人生に関わってしまってる。その事実を否定するな。結果なんかより行為が救いである…か。)

願いとか救いとか…割と大層なことを言ってはぐらかされてた気がしますが、なんかハルトさんらしいや。
走って紙に書いて色々思い返してたどり着いた結論に俺は言葉を噛み締める。

未来の俺は、ハルトさんの桃の木の話を……枝を折って花瓶に挿す行いをどう捉えてたのだろうか。“外の世界の証拠を毎年1本だけ持って来て、自分の望みを外から必死に引き寄せる行為”みたいな捉え方をしたのだろうか。俺、ハルトさんが言ってた通り「他に頼るものがなくて迷信にしか縋れなかった」って意味でしか捉えてなかったからちょっと恥ずかしい。

まぁ。だから俺は、未来の俺と同じ様に
A(スカイジャンパーのミニミニフィギュア)× B(リュカがハルトの桃ノ木になる!)= C(時空転移)

って書いてしまったのだろう。全く、またハルトさんにクソガキだって笑われてしまう。

俺は夜暗くなってから工場まで瞬間移動し、20ロット分未来へ拝借させてもらった。
願い通りの事、ちゃんと成し遂げましたのでもうすぐ帰ります!
この世界のハルトさん、どうか今の俺のように俺と楽しく過ごしてください。結果はどうであれ動いてくれた、動かされた事実は確かでそれ以上もそれ以下もないと俺は思います。
あ、でも今よりもっとぎゅっとしてくれたら嬉しいです。冗談です。

そんなことを思いながら、俺は未来に戻った。