パチン。パチンと爪を切りながら俺は考える。一昨日切ったばかりなのにまた伸びて来てちょっと煩わしかった。健康な体だから爪の伸びも早いのだろうか?
俺は、配達の仕事を続けながらいろんな人に精神操作をかけ、スカイジャンパーのフィギュアを集めている人の情報や、クソガキの情報、瞬間移動や精神操作などのこの紙の力について、そしてあのおっさんが所属していた子供達を誘拐していた組織についての情報を集めるのを手伝って貰っていた。
そこで今日、半グレのヤンキーが教えてくれたのだ。瞬間移動できる塾講師の存在を。
塾教師曰く「教え子から貰ったフィギュアを持ってオーロラ見たいと考えていたらレウドルーラ(この星)の反対側まで飛ばされてたんです」って笑って答えてた。めっちゃ綺麗な夜空の写真を見せながら思い出話として片付けてたけど、絶対笑い事じゃないと思う。こぇえよ。タフネスかよ塾講師。
リュカもお兄ちゃんとジャンパーに会いに行きたい!自由にお空飛んでみたい!って言って得た力だって言ってたし…ていうかニュアンス的に飛ばされたの雲1つない上空っぽかったけど、本当よく生きてたなお前ら……その後捕まえたおっさんの組織もなかなかのものだぞ!?
そう、それで気づいたんだ…
もしかしたら、俺だけXXではないのかもしれないってことに。
塾講師も、リュカも、A(スカイジャンパーのミニミニフィギュア)× B(自由)= C(瞬間移動)の公式に当てはまっている。
フィギュア持ってた、自由(翌日の休み)を願った、行きたい場所が明確だった…から。
これ、俺だけXXじゃないってなると…かなりやばい状況かもしれない。
「ハルト! 来て!!」
いきなり目の前にリュカが来る、瞬間移動してやって来たのだ。
来てと言ったのに案内もせずにリュカは不思議な顔をしていた。どんな感情だよ…これだからガキは嫌いなんだ。
「どうしたんだ? リュカ」
「……ハルト?」
「あ”? どう見てもハルトだろ。」
「ならいいや。ねぇ!!!来てハルトすごいから!!!」
そうして俺はリュカと一緒に飛ばされた。1Fのリビング、TVの前へ。
おいリュカ。好きに使っていいって言ったけどあのフィギュア1個550delするんだぞ…!!
まぁいいか。そのままソファに座り、「見て!!」って促されたアニメを見た。
「ふっ…お前の様な、ただ高く飛べるやつがヒーローだなんて笑わせるなよスカイジャンパー! 俺は博士の研究によりお前よりも優れた力……そう、”瞬間・移動・能力!!”を手にしたのだァ!!!」
(あ…待って。この流れやばい)
「テンイ…お前、まさか俺を超えたいが為に悪の道に落ちたというのか!!」
(もし仮に、俺だけXXが本当に俺だけじゃないとしたら…!!!
俺はあの紙のB欄に”自由”と”安堵”と書いてしまった……)
「ああ、そうだとも。飛べるだけのお前が俺に叶うはずはない。諦めるんだな…ははっ!!!あっはっは!はっはっははははは!!!」
(スカイジャンパーが勝って”安堵”を得た子供が精神操作できる様になるかもしれないし、瞬間移動を使えるキャラが出たことで、想像力とか、概念とか、そういうの関係なしにスカイジャンパーのフィギュアを見て”瞬間移動”、”自由に飛びたい”みたいな価値観が自然に出て来てしまう…!!大人子供関係なく瞬間移動ができる子が増える…!!)
ブツン!とTVの電源が切られ、リュカが俺の膝にまたがり俺の視界を占領する。
そこまでされて俺はハッと我に帰った。
「ね! ハルトすごいでしょ! リュカもハルトもしゅんかんいどう使える! だから、よげんしゃー!!」
「あっ…ああ。そうだな。。。」
「ねぇ、ハルト…顔色悪いよ? 大丈夫?」
「大丈夫。」
(そう、大丈夫だ……フィギュア製造会社を潰しに行けばいい。これ以上Aが…スカイジャンパーのミニミニフィギュアが市場に出回らない様にすればいいだけなんだ。まだ間に合う。大丈夫だ)
「なんか…ハルト変なのー!」
「そうか?……なぁ、お腹空いたからなんか買って来てくれない? あーーー。あの、菓子屋のパンまた食べたいかも」
「ふわふわの甘いやつ!!! リュカも食べるー!!!」
「買いに行けるか?」
「うん! 行ってくるね!!!」
「気をつけるんだぞ!」と言う暇もなく急に視界が広くなる。
俺が望んだことなのに、急に1人にされて俺はちょっと寂しかった。
目の前の、暗い…真っ暗なTVが映し出す俺の姿に俺は驚愕した。
恐る恐る近づいて確認する。眼光が鋭くひかり、牙が生えていた。下唇を噛みそうなぐらい鋭い歯が口元を少し開けただけで見えてしまっていた。信じられなくて狼狽し、画面に触れる。
画面に触れた手を見てギョッとする。異様に爪が伸びていたのだ…
なんだよこれ…。なんなんだ!!!
とりあえず、リュカが帰ってくる前に爪切って、牙も隠さないと……!!
こんな恐ろしい姿。俺じゃない!!!俺なわけない!!!
「あぁ…くそっ……なんで………」
握りしめた手のひらから血が流れて痛い。リュカ…気づいてないよな?このまま気付かないでいてくれ。
__________
悪い奴も俺と考えることは同じだった。
……というか、おっさんの…あの、リュカの兄や子供達を殺した組織が先にフィギュアの製造工場を占拠していた。おっさんと同じ服着てたからたぶん間違いはない。まったく…なんなんだよ。
俺は、組織の武装集団に襲われながらも工場へ潜入した。
ここで働く従業員や偉いヤツに精神操作をかけて、製造を中止にさせれば終わることだと思ってたんだ。しかし現実はそうじゃなかった。効かないんだ……精神操作が。
もう、完全に乗っ取られていた。
おっさんレベルの戦闘慣れしてる奴が瞬間移動を持って武装してて、ここの従業員を人質に取り籠城している……そんな状態だった。あのしゃがれた声のボスはこの公式(瞬間移動と精神操作)に気づいて、教えたのだろうか……そうじゃなきゃ話がつかない。
ていうかクソ…っ。逃げんなよ!!!!バンバンバンバン瞬間移動してんじゃねぇよ!!!
マズイ……マジで、このままじゃ負ける……!!!
「ッ…ハァ、ハァ」
「ハルトおかえりー! あれ? どうしたの? なんか腕赤いね。それに変な匂いするー!」
「えっ……あ、おまっ。俺の部屋に……待って?えっ。なんで」
「? ハルトどうしたの?? リュカ、ハルトが好きだからいつもここ来てるよ? 部屋入るのダメだった?」
「違う…そうじゃない。そうじゃないんだ……頼む。俺を見ないでくれ……」
俺は、震える声で言葉を発し、その場に縮こまった。しゃがんで俯いて、リュカに顔や爪を見られない様にする。
瞬間移動して俺の部屋に飛んできた際に俺が見えたものは2つ。
1つは、いつもの通り無邪気に遊ぶリュカの姿。
もう1つは、窓ガラスに映る俺の…異形化した姿だった。
見られたくない。こんな俺を見ないで欲しい。そんな純粋な笑みを見せる相手は他にいるはずだ。少なくともこんな姿になった俺じゃない。だから、頼むから見ないでどこかへ行ってくれ……
「いつも見てるのにみちゃダメって変なのー!」
顔を掴んでぐいっと目線を合わせてくる。やめろ。やめてくれ。怖い。怖いだろ……
普通に考えて怖いだろ…なのになんでこんな普通なんだ。
「やめ…ろよ。こわ、っ。怖い…だろ」
「怖くないよ。」
「なんで…俺、どう見ても怖いだろ」
「怖くない。リュカはハルトのこと怖いと思わないよ。ジャンパーだって変身して姿変わるし、ハルトだって変身して姿変わってたとしてもハルトはハルトだよ」
「そんな…だって、俺。こんなッ……牙だって、爪だって生えてるし、その…おれっ……最初にお前にあった時より随分と変わっちまった。力使ったり、考えると、こうなるんだ……ジャンパーの変身とは違うんだ……」
「大丈夫。ハルトはハルトだよ。リュカが大好きなハルトはいつまでも変わらないよ。それにハルトおっさんちゃん殴ってる時とか、階段でスカイジャンパーごっこして飛び跳ねてた時とか、力関係なく怖い時は怖いし……最初から怖かったからリュカからしたら今更だよ」
「そう…なのか?」
「うん。ハルト最初から怖かった。でもリュカはその怖さも好きだからハルトが好きなの」
「そ、そうか……」
俺はちょっと落胆した。なんだ嫌われるかもしれない・怖がって離れちゃうかもしれないって思って、想像以上に恐れてたのは俺だけかよ……
「ハルトの顔見てもいいよね?」
「ああ」
「ハルトに抱きついてもいいよね?」
「ああ」
聞く前からがっちりお腹をホールドしていたリュカは返答を聞いた瞬間、思いっきりぎゅっとして来やがった。回避の時にかすった脇腹や腕が痛い。
「……痛ッ。待った。やめろ!俺、まだ仕事中だからやめろ!!」
「へへっ。いつものハルトだ。ハルト元気になった。良かった!」
「あー!!もう、だから抱きつくなって!!!全く……」
「せっかくだからいつもの言う?」
「どんなリクエストだよ。まぁそうだな…言っても良いかもな」
「やったー!」
「「……悪い、リュカ。俺まだ仕事中で構ってられないんだ。夜までには帰ってくるから大人しくしてるんだぞ」」
「……なんで覚えてんだよw」
「へへっ。カッコいいでしょ」
「カッコよくねぇよ。恥ずかしいからやめろ!!」
「へへっ。ハルト照れてるー!」
そろそろ俺はリュカを強引に引き剥がした。
そうか…カッコいいのか。いや別に照れてねーし何言ってんだよ畜生!
「あ、そうだ!!! 見て見て!!今日おもちゃ屋のおじちゃんがテンイのミニフィギュアくれたの。いつもジャンパー買ってくれるからおまけだって!!!」
「良かったじゃん」
俺から引き剥がしたくせに、俺は普通にリュカの頭を撫でてた。「へへっ」て嬉しそうに笑うリュカの顔に漠然とした呆れとやすらぎを覚えてしまった。
はぁ……本当こいつ好きに出歩く…ってか瞬間移動しまくるなぁ……俺が異形化していっているのって完全に能力のせいかと思ったのだけれど、俺と同等かそれ以上にコイツも瞬間移動しまくってそうだし、どうやら他の要因があるのかな。ああもう良いや。むかつくぜ畜生
__________
「あ!ラッキー。見えた!!」
「見えたって? ハルト何が見えたの?」
「なんでもねぇよ……あー。じゃぁ、まぁ。そろそろ行ってくるわ」
女神から貰った紙に1文書き記し、フィギュアの補充も終わった俺はリュカにそう告げる。
「うん! 気をつけてね!!」
「おう!」
そう言って。俺は消える。またリュカを1人にする。
さぁ行くぜ! とっとと死ね!悪党ども!!!
__________
「休憩の時間だ。代わりに来たぜ!」
「おう、さんきゅ。あの侵入者は?」
「さぁな。もう見当たらないし、逃げたんだろ。そっちでも確認できてないだろ?」
「ああ。ずっとここのモニター映像を見ているが確認はできていない。……それよりお前、背中のそれどうしたんだ?」
監視業務を代わりに来た仲間の背中に、キラキラと光る物を確認したため恐る恐る取り外す……目が合う。そのキラキラとした物はこちらを見ている様だった。
「おい、まさか…これ。かめ__」
トンっとそいつらの肩を叩く。その途端、自然に首が落ちた。
A (スカイジャンパーのミニミニフィギュア)×B (不可避の一撃)=C (ギロチン)
「そう。カメラだよ…ってもう首落とされて喋れないだろうけどさ」
女神から貰った紙を見る。”死を願い腕を振り下ろすことで絶対的な死を与える”そう書かれていた。”安心感で依存させ言うことを聞かせやすくする”とか書かれた精神操作の説明欄見た時もなかなかやべぇなとか思っていたのに、今回の力も相当やべぇ。
まぁ、全て殺して全て回収するから別に良いか。
足元に転がる2つの首と胴が断絶された死体を跨いでモニターの前に立つ。
そうして俺は、腕を振り下ろした。
機械と俺以外、工場で動いている奴は誰もいなかった。
