第2話 瞬間移動!

「きゃぁ!ひったくりよ!!!誰かぁ!あの二輪車を…」

「このバックであってますか?」

「うっわぁあああああ!」

ひったくり犯の悲鳴とカシャン。トンッ…ドッ!と勢いを殺せず転がっていく鈍い音。ジジジリリリリリとチャリのタイヤが空回っている音が静かに事の終わりを示していた。

俺が瞬間移動でバックを奪い返し、戻る際に前輪を軽く蹴飛ばしたからだ。
ははっ。盛大に転んでやがるぜ痛そ…まっ、他人のものをひったくるからだぜ。ザマァ見やがれ!

「えっ…あ、ありがとうございます。」

「いえ、どういたしまして」

俺は軽く会釈をしたのち、何事もなかったかのように仕事に戻った。
後1件配達があるんだ。まぁすぐそこの家へ荷物渡して終わりなんだけれどね。

人口が26万人しか居ない小規模な惑星だからか、ここは乗り物の発達が俺の元居た世界(地球)より遅れていた。

一般的な移動手段は歩行、チャリ(二輪車)のどちらかである。バイクや、車なんてものは存在しない。たぶんエンジン自体開発されていないのだろう。運送業も交通機関なんてものものかった。あと、通信技術も発達していない。インターネットがないのが現代人の俺からしたら悲しかった。

ま、そんな感じだから。俺、配達事業を立ち上げて荒稼ぎしちゃってます。
全国どこでも当日中にお届け!1発送3000del~とかいうアホみたいな広告投げ打っただけなのにじゃんじゃん配達依頼が届いた。

スカイジャンパーのミニミニフィギュアが1個550delだから往復したとしても半分以上の利益が出る。ははっボロい商売だぜ!!!

稼ぎながら、色々な場所を訪れることができてこの世界の地理とか情報とかあのクソガキの聞き込みも自然に出来る上、玩具屋(Aの消耗素材補充)の場所も把握できるんだぜ?…よく考えたものだろ?

俺は、配達荷物を掴み直し本日最後の客の元へ向かった。

__________

「いえいえ、本当に神隠しとか怖いですよね……またのご利用お待ちしております!!」

帽子を下げ玄関の扉が閉まるまで見送る。
ふぅー。ここでもか……今回も客に「最近何か気になったこととかありませんか?」って聞いたら、子供が急に居なくなる神隠し事件についての話が出てきたのだ。
これで昨日から15件目だ。具体的に消えた子の名前まで出てくるし、俺には関係ないことだけれど、やっぱりちょっと気になるなぁ………。

「助けてよぉ!!!お兄ちゃんがぁ…!!!」

急な子供のSOSに意識がそちらに持っていかれる。
数メートル先にある、町の相談所…治安維持管理機関から摘み出された子供が泣き喚いていた。

「はいはい。あまり大人を揶揄わないの。瞬間移動なんてあるわけないでしょ!?」

(おい、おまっ…いまなんつった?)

「うわーん。まってよぉ!! やだやだやだぁ!!!」

ガキは嫌いなのだが、流石に聞き逃せない単語を耳にしたので俺は近づく。「どうしたの?」ってなるべく優しく声をかける。

「あのね。リュカとお兄ちゃん捕まっちゃって、リュカみたいなジャンパーで飛べる子たくさんいて、お兄ちゃんがおもちゃくすねて逃がしてくれたの。リュカは飛べるから」

「ッ…!!!」

耳を疑った。驚きで視界が眩む。

「お前…ちょっとこっちに来い!」

俺は焦って人気のないところまでこのガキを引きずった。
街中じゃまずい。せめて路地とか、人目に付きにくいところに行かなければ!!
__________

「……お前の言うジャンパーってこれのことか?」

俺はポケットからスカイジャンパーのミニミニフィギュアを取り出した。

「うん。」

「飛べるって言ってたよな? このおもちゃで逃げてきたのか?」

「うん! しゅんかんいどう って言ってた。リュカこれでどこでも行ける。」

「ッ!!!」

なんてこった。俺と同じ能力じゃないか!!!

「ねぇ!!お兄ちゃんを助けて!!!お兄ちゃんリュカと違って飛べないからお兄ちゃん死んじゃうかもしれない!!!リュカ、お兄ちゃん死んじゃうのやだ…」

ガキにボロボロに泣かれて懇願されて俺の心は揺らいだ。
瞬間移動の件も気になるし、放っておくのはマズい気がした。

「わ、わかった。わかったから落ち着け!」

「うあっ…ありがとう!!!」

押し殺し気味の声で呻き、思い切り足に抱きついて来やがった。
汚れるからやめろ。泣き止んでからくっついてくれ。

「ねぇ…えっと…」

「あーー。ハルトだ」

「ハルトそのおもちゃまだ持ってる? 一緒に行くから2個あると嬉しい。」

「あぁ、ある。あるけどちょっと待て」

俺は女神から貰った紙を取り出す。

A(スカイジャンパーのミニミニフィギュア)× B(安堵)= C(精神操作)

っと。まぁ、こんなんで良いだろ。今はまだC欄に説明は出てきてなかった。1度使わないと出てこないのかな?
俺は紙を内ポケットにしまい直し、しゃがんでガキと目線を合わせた。

「リュカ、いいか? これからお前のお兄ちゃんと他の攫われた子達を助け出す。なるべく俺から離れるな。命大事に慎重に行動しろ! わかったか?」

「うん……わかった。」

コクリと頷き俺を見る、意思の宿った黒い瞳に俺は安心する。物分かりが良い子みたいだ。
俺はポケットからフィギュアを2個取り出し、リュカに見せた。俺の持ってるフィギュアはこれを合わせて7個ほど……少ないかもしれないが、まぁなんとかなるだろ。

「渡す前に確認するが………どこに飛ぶ気だ?」

「お兄ちゃんのところ!!!」

「残念。違うぜリュカ。人が少なくて捕まってた場所以外のところに飛ぶんだ。お前らを捕まえた悪いヤツをボコして吐かせて安全にお兄ちゃん達を救出する。良いな?」

「うん!」

リュカの小さい手が俺の手を掴み、フィギュアに触れた。
その途端、俺達は暗くてジメジメした場所に飛ばされていた。

__________

「ここはどこだ?」

小さい声でリュカに聞く。暗くてよくわからない。

「おといれ」

俺に習い、リュカも小さい声で答えた。

パチッと耳元で小さい音が鳴り、いきなり電気がつく。
「うわぁ!」と電気をつけた知らないおっさんが真隣でたじろぐ。なるほど、俺達はトイレの入り口付近へ飛ばされていたのか。

俺はおっさんの頭を両手で掴み壁に叩きつけた。ついでに殴る。
いきなりのことで混乱しているおっさんはされるがままだった。

何撃か加えた後、おっさんは「なんだ…なんなんだお前らぁ……」と弱々しく言葉を発した。その様子を見て、俺は手を止める。ちょっとだけ体の力を抜き穏やかに答える。

「ああ。わかるぜ。知って安心したいよな……俺もだよ。」

そう言いながらポケットに手を突っ込みフィギュアを1つ握る。

「だからさ、俺たちに色々教えてくれよ」

フィギュアが消えた。おっさんは痛がるのも鼻を抑えるのもやめ、静かに。無表情になった。
どうやら精神操作が成功したみたいだ。やったぜ。このまま色々こいつから聞くことにした。

「とりあえず、お前が知ってることを全て話せ」

「はい…。___」

__________

「おいおっさん!あまり無理するな!!!下がれ!!!」

「いえ、春翔様。時間があまりございませんし、ここで人員を減らしておかなければ後の子供達救出作戦が大変になります。春翔様こそ下がっておいてください」

「ねぇおっさんちゃんは、なんで仲間とケンカしてるの?? ケンカはダメってお兄ちゃんが言ってたよ」

「あーーー………」

ダンっ。ダンっ。と何発か撃つ音が聞こえ、コンクリの壁がひび割れパラパラと砂塵を撒き散らす……そんな中、リュカに袖口を引っ張られ「ケンカはダメだよ」とか言われ俺は言葉を失った。わかるよ。喧嘩はダメだよな。でもこれそういう問題じゃないんだよな。
俺が殴った傷とか痛いだろうに、全く無茶しやがってよぉ…おっさん。

キンッ__

手榴弾のピンが抜けるような音が響き、俺は咄嗟にリュカを壁際に追いやり覆い被さる。

「おい!手榴弾使うなら先に言え!!危ないだろ!!!」

「申し訳ございません。春翔様。制圧が完了し、程よく備品室の壁も壊れました。これで子供達を救うことができますね」

「っ…あ、ああ。そうだな……」

おっさんからの事情聴取でわかったことは主に3つ。

1つ目、ここは非合法であったりグレーであったりするもの集めて、必要としている人に売りつけて生計を立てているというなかなかアングラな組織のアジトであるということ。

2つ目、俺やリュカと同じスカイジャンパーのミニミニフィギュアで瞬間移動できる子を見つけて、そいつらを商品として扱う様になったと言うこと。そして、その子供達を使ってこの組織は成ちょ……もっと悪い事しようとしてたってこと。

3つ目、リュカとリュカの兄は原種?らしく本日夕刻に取引する予定であったという事。

見たところ普通の子だし、原種が何か知らんけど「原種で瞬間移動持ちとか相当高値で売れるぜ!!!ヒャッハー!!」と大の大人達が小躍りするぐらいリュカとリュカの兄は商品として良い品物らしい。知らんけど。

とにかく、もう直ぐ日が暮れる……リュカのお兄ちゃんだけ出荷されてて助け出せないなんて洒落になんねぇ……急がないと。

おっさんの案内の元、備品室と呼ばれるスカイジャンパーのミニミニフィギュアが大量に集められている部屋に入って行った。

このフィギュアを持てるだけ持って、子供達が捕まっている部屋へ瞬間移動し、フィギュアばら撒いて治安維持管理機関の建物前にみんなで一斉に飛んで脱出するって作戦だ。

その後のことは知らん。とりあえず頑張れ治安維持管理機関。事情聴取できるようにおっさんも連れ出して来てやるから、この組織の解体と子供達の後のフォローは頑張ってくれ。

そんなことを思い返しながらも、この作戦のキーとなるスカイジャンパーのミニミニフィギュアを探す。どこだ!?おっさん、たくさん集めたと言ってたのに……同じような箱が並びすぎててどこに入ってるかわかんねぇよ!!!

「ハルトー!!見て見て!!!あったー!」

「でかした!リュカ!!」

リュカの声に応答し、手分けして探していた俺とおっさんもリュカのところに集まる。
スーツケース程の大きさの木箱の中に山いっぱいのフィギュアが入って居た。

「リュカ、お兄ちゃんのところ行けるか?」

「うん!!」

「よし! じゃぁ飛んでくれ!」

俺達は木箱に捕まった。飛んでる時特有の内臓が押され上に上がってくる不思議な感覚を味わう。この救出作戦が成功したらちゃんと罪を償ってくれよ、おっさん。

__________

「うっ…ああ!!お兄ちゃん!!!!」

リュカが柵の前まで駆け寄り泣き叫ぶ。

どうやら俺達は牢屋の前に飛んだらしく、鉄格子を挟んだ向こうに20人ほどの子供達が居た。あ…違う。牢屋の前じゃない。俺達が牢の中にいる。数人の子達が通路のシャッターに向かって「開けて!!開けてよぉ!!!」って騒いでいるからわかったことだ。

ブツン!とマイクに接続するノイズ音が聞こえ、しゃがれた声がスピーカー越しに聞こえて来た。

「いやぁ…君たちの奮闘を先程から見せて貰ってたよ。でも惜しかったね、君たちの目論見は果たせぬまま終わる。この瞬間移動できる子達は私たちが見つけた可能性の原石みたいな子達だ。他の奴らに使われるぐらいならお前ら諸共ここまでだ。死ね」

その瞬間、ゴオオオオオとすごく嫌な音が聞こえた。
咄嗟に俺はリュカの元まで飛び、肩を掴んで瞬間移動してしまった。

さっきの時点で、俺のポケットに入ってたフィギュアは残り3つ。
1つは、リュカの元まで飛ぶのに消費してしまい。
2つは、リュカと俺が、俺の家まで飛ぶのに使ってしまった。

リュカは格子越しに兄の手を掴んでいたのに……俺のせいで死んだも同然じゃないか。。。
戻った時にはアジトは崩壊していて、幾つもの焦げた死体しかなかったのだから。