第6話 信じられない炭酸

白をベースにナチュラルな雰囲気が統一されたシンプルな部屋、パッと見から俺の部屋とは大違い。俺の部屋も物が少ないから綺麗な方なんだけどもっと殺伐としてるというか……とにかく違った。これが女の子のお部屋かと感心するほどだ。
赤いワインレッドのカーテンが風になびいて目につく。部屋の主がジャーナリストだからか、紙切れや本が棚に入らず床に重ねておかれている。一見、無造作のように見えるが統率のとれた雰囲気がある。
ベッドの上には淡いピンクのくまのぬいぐるみ。ぎゅっと抱えられるぐらいの大きさだ。

この子……目の前のデスクチェアに座ってる、全体的にシュッとした顔立ちでツンとしたおめめが特徴的な赤茶色の長い髪をポニーテールで束ねている「ソフィア・クレイン」さんが、部屋で1人で居る時とか、寝る前とかにぎゅっとくまさんを抱えているのかと思ったら……めちゃくちゃ可愛く思えてきた。俺より3歳年上の社会人なのに!

しかも良い匂いするし。嗅いだことありそうでない甘い白いお花のようなみずみずしさもある良い匂いするし……ずっと嗅いでいたいような良い香りだし……ちょっとこの空間はヤバい。俺は隣に座ってるノアに話し掛ける。

「なぁ、お手洗いどこだっけ? 案内してくれる?」

「え? 知ってるでしょ?エイデン。真っ直ぐ行った突き当たりのとこだよ」

「あ? いや。わかんねー。ってか、いいからちょっとツラ貸せよ」

俺は強引にノアを立ち上がらせ、部屋の外へ連れ出した。

「……なぁ、お前のねぇちゃん。可愛くね?中学の時ぶりっていうか5年ぶりぐらいに顔会わせてるんだけどなんか俺、めっちゃ緊張してて…」

俺は、ノアの肩を掴みながら動揺を隠さずに言う

「は?」

ノアは冷たかった。

「いや。俺も良くわかんねーんだけど、前までこんな大人びてなかったじゃん? もっとちんちくりんだったっていうか……でも今はこんな大人なお姉さん!って感じするし、めっちゃ良い匂いするし」

「ごめん。エイデン。さすがにキモいよ」

友から言われるキモいという言葉より破壊力のある言葉はあるだろうか……否。ないね!!!

この言葉で スンッ……となった俺は、冷静さを取り戻し席についたのであった。

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「話し合いは終わったー? 本題に入っても大丈夫?」

背の低い机を挟んで目の前の濃いピンクのデスクチェアに座ったソフィアは俺達に問いかける。
俺とノアは床だ。渡されたクッションがイルカの形をしていてとても可愛い。ノアはワニさんの上に跨がってる。

「あ。ああ。」

「……エイデン君も知っての通り、私の弟ノアが奨学金受給者から外された件なんだけど…奨学金制度を学校側に提供しているオルティス・グループが深く関わってると思うの」

「……はい?」

「先日、オルティス・グループに関する内部告発的な情報を得てね。表向きはオルティス・グループの創業と今後の発展についての取材をしたのだけれど……その、従業員の覇気?なんかわかんないけどなんかあるって気がしたの」

「お、おう…」

「だからね。こっちで金の動きとか表向きに出ている情報精査するから、ノア達は学校で奨学金に関する情報集めてきてくれないかな?ノアが制度徐面されたの、明らか不当だと思うんだ。何かある気がするの」

ごめん。俺は、目の前のノアの姉ちゃん……ソフィアさんが何言ってるのかさっぱりわからなかった。
だって、オルティス・グループは、シュワッと弾ける炭酸水|(オルティスソーダ)で有名な飲料メーカーだ。無糖炭酸水を筆頭に桃、ミカン、イチゴミルク、アンズ、クランベリーなどの様々なフルーツ系炭酸飲料を販売している。
ここサンディエゴで知らないヤツはいないぐらい……炭酸水が好きなら大人も子供も1度は触れている、それがオルティスソーダだ。たぶん勝手に義務教育されている。ちなみに俺はイチゴミルクソーダが好き。甘酸っぱい酸味がタコスと合うんだ。

そんな企業が、なんで?なんの為に???
隣のノアをみる。唇を触りながらなるほどって唸ってる。おい嘘だろ?なるほどってなんだよなるほどって!!!

やべぇ、俺、完全に会話から置いてかれた。まぁいいやとりあえずOK出しとくか。

「OKわかった。奨学金制度についてや、他の奨学生について調べてくればいい?」

「うん。あと、できればだけれど他にも気づいたことあったら教えて欲しい」

「了解」

そう答えつつ、隣のノアに眼を向ける。

「手分けしていこうか」

「うん。そうだね。僕が他の奨学生…生徒について当たってみるから、エイデンは先生たちへ聞き込みお願いしていい?」

「ああ。これは、俺が新規で奨学生になりたいから情報知りたい…みたいな感じで当たった方がいいのか?」

「うーん。そうだね。その方が自然だしそうしようか。ね?いいよね。姉さん!」

「グッド!!! っていうか理解が早いし手際がいいわねぇ……。少し心配になるわ。まぁ、こちらとしてもまだ色々話せる状況じゃないんだから助かるんだけれどね」

……ありえないほど早く話し合いが終わった。
まぁ、オルティス・カンパニーが関わってるか否かは明日動いてみればわかるか。

「この後どうする? エイデン。勉強していく?」

うっわ。試験前じゃないのに、選択肢に勉強が出てくるのかよw

「……試験前じゃないのにやるわけないだろw バスケしようぜ」

「……遠慮しておくよ」

俺とノアとの苦笑い…ってか半笑いの応酬が終わった。
俺は立ち上がって帰る仕度を始める。____ッああああ”!!!俺はちょっと苦悩した。
その苦悩を諭されぬように何気ない風を装って話し始める。

「あ。そうだ。母さんから買い物頼まれてる……っていうか今日夕飯俺が作る予定なんだ。どうせ暇だろ?お前も手伝えよ」

「エイデンのご飯作りに手伝う理由、僕にはないんだけれど」

「いいから手伝えよ。多めに作るから。お前の姉ちゃんの相手、大手企業だろ?情報整理で忙しいみたいだし……持って帰れよ」

ほら…、お前もお前で奨学金外されてそれどころじゃないだろうしさ。。。
いや違うな。俺も俺で1人でいたら昨日の事件のこと思い出しそうで俺が怖いだけかも知れねぇな……ははっw情けないやつ。

「メニューはそうだな……。冷蔵庫に熟れすぎたバナナがあるから…そいつを救済するために、バナナパンケーキと、後は持ち帰りやすいようにトルティーヤかな?」

「パンケーキ!?」

まさかのクレイン姉の方が反応した。すっごい笑顔だ。甘いの好きなの反則だろ。可愛い。

「ほら、この可愛いお姫様を一緒に喜ばせてあげようぜ?」

めっちゃ嫌そうな顔されたwww
マジかよノア。そんな眉顰めないでくれよ。怖ぇよ。。。

少し時間が経った後、ノアから「ありがとう…」とちゃんと感謝された。俺たちは玄関に向かう。スマホを忘れてたみたいでソフィアさんが玄関まで駆けつけて来てくれた。

……そういえば、一応ジャーナリストのお部屋だからってスマホ等の録音機器は全て電源オフにして没収されたんだった。すっかり忘れてた。お前の姉ちゃん大雑把なのか慎重なのかわかんねぇ性格してんなぁ……

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俺たちは、明日の作戦やノアの姉ちゃん…ソフィアさんについてとか話しながら買い物に向かった。一瞬炒飯|(メキシカンチャーハン)もいいなぁとか思ったけれど、冷蔵庫の残り物と缶詰で作れる貧乏学生の簡単定番メニューだから止めた。
どうせ食い飽きてるだろ?俺もお前も。それにトルティーヤならトルティーヤの生地多めに作れば、パンケーキの生地にも転用できるからな。

そんなかんなで買い物行き、中の具材どうする?って俺の記憶の中の冷蔵庫の中身と参照しながら会話して、ご飯作るのも手伝わせ、好きなようにトルティーヤに巻かせて、思ったより多めに作りすぎた中の具材も持ち帰らせた。

たまに厨房の方に入るし、タコス屋でバイトしている俺ほどじゃないけれど、ノアの手際は悪くなかった。へぇ…ちゃんとしてんじゃんって正直感心した。………カット以外。

「トルティーヤの中の具材のカット任せていいか?」っていう俺の問いに、
「もちろんだよ!」ってめちゃくちゃ信頼できる返事が帰って来たから任せようと思ったんだけれど……俺は終始。「ノアさん!??」「のああああああ!!!」って叫んでた。怖いし切り口バラバラで基本口に入らないぐらい大きいし、いつの間にまな板に大きな傷が…!もう俺は見ていられないので生地焼く係の俺と変わって貰った。

フライパンより包丁の方が楽だろ普通……どういうことだってばよ。

医者目指してるのに…メスとか握る予定なのに???あれ、ノア目指してるの外科だっけ?内科だっけ?まぁいいや。とりあえず俺は忘れることにした。

ご飯の湯気が、ちょっとだけ2人を温かく包んでくれるような…そんな夜になることを俺自身、まぁ。祈れる立場ではないんだけどさ……。祈りながら俺は、ノアと別れた。

自室に戻ったら悪魔が待っていた。無言の圧を掛けて来やがった。
はいはい。わかってるよ。1日立ちましたね。それが?どうした? まだ6日間もあるんで別にいいだろ。うるせぇよ。…俺はそう呟いて母の帰りを待たずに寝た。悪魔は何も言わなかった。

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