第3話 帰宅

ナショナル・シティにある「8th Street|(エイティーン・ストリート)」駅はトロリー電車……日本で言うところの路面電車みたいなやつだ。それに乗れば、俺ん家の最寄駅「Civic Center|(シヴィック・センター)」駅まで8駅。
約20分間の電車移動をし、そこから徒歩10分。

そう、あと30分で帰れる………はずだった。

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俺は今、22時10分着の電車を待っている。
スマホで時間を確認する。今の時刻は22時8分。あと、2分でここに電車が到着する。

路地裏を出てから、今のところ声をかけられたり、不審な目でジロジロ見られるような事はなかった。もともとこの町、ナショナルシティは治安があまり良くない為、こんな遅くに街を歩く人は少ないのだろう。

俺はここまでなんの問題もなく来れたことに安堵した。そして、家に着くまでの残り30分も問題なくいけるだろうと楽観的に考えようとしたその時……ウーウーとした音が鳴ってるのに気づいた。

パトカーのサイレンの音だ。

この町では良く鳴る音で、俺もバイト帰りに何回も聞いたことのある音だ。
それなのに、どうも今日は、このウーウー鳴る音が他人事に感じることができず、吸った空気が俺の喉元にはりつき俺から出ていかない。
もし、目撃者が居て俺のことを通報していたらどうしよう……テンポの速いウーウー音に連れて俺の心臓もバクバク唸る。赤と青のライトが街にチラつく。視界がくらくらする。

不審人物に思われないようにしっかりしなきゃなのに、「どうしよう」という不安が頭の中を埋め尽くす。立ってるだけで精一杯……いや、ちゃんと立てているのかもわからない。

音は徐々に大きくなっていき、俺に近付いて来ているようだった。さっきまでよりハッキリ大きくサイレンの音が聞こえる。

逃げたい。今すぐにでも走って逃げ出したい。
どこか安全に隠れられる場所を見つけなきゃ!と周囲を見渡そうと前を向いたら扉が開いた。

電車が来たことに全く気づかなかった。俺はすぐに飛び乗り、電車の中を見渡す………良かった。人も少ない。ポツンポツンと座席が空いているが、俺はすぐに降りられるよう、銃を立て後ろ手で隠せるよう、扉近くのかどっこを陣取った。

(………ッッッッああああああああああ!!!!)

俺、エイデン・カーターは今すぐにでも叫びたい。喜びとも安堵ともとれる感情を漏らしながら。
しかしそんなことはできぬ。
だからとりあえず、音も表情も出さない様に、指先がめり込み突き刺さるんじゃないか?って程の力で、静かに、ぎゅっとジャケットに包まれた銃を握ることにした。

「おい」と脳内で声が響いた気がしたが、俺は気にせず握り締めたジャケットを見る。よしっ、銃ははみ出ていないようだ。
確認が終わった俺は、そのまま銃を後ろ手に回し、壁と俺との間に挟んで目立たないように隠した。

無視されたのが気にくわないのか、その間ずっと俺の脳内でいくつかの振動がこだまする。

……ったくうるせぇよ。誰のせいでこんな目にあってると思ってるんだクソ野郎。。。そう思った瞬間急に悲しさが込み上げてきた……

(あぁ。「誰の」って違うか。俺たちのせいか……)

少し落ち着いてきた俺は、わかってます。ちゃんと大切に扱いますと答えておいた。

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俺は、目の前の乗降口を気にしつつ、今までのことを1つ1つ確認していくことにした。

本当は、これからのことを考えた方が良いってことはわかっているのだけれど、どこから手をつければ良いのかわからない。それよりさっきパトカーの音が鳴っていたし、何かあったらと思ったら不安で、どうしようもなかった。

まずは、「路地裏での出来事」
・俺が撃ったギャングも、血まみれの男も2人も死んでいた。
→指紋が付くのを懸念し脈は測れなかったが、ジャケットを奪う際、少し濡らした指先を死体の口元に近づけて風の動きがないか確認したから2人も死んでいたと断定して良いだろう。2人とも息をしていなかった。

血まみれの男の死因が気になるが、気にしたところで今俺にできる事はない。一旦忘れよう。あとは、目撃者がいない事、俺に繋がる証拠を残していないことを願うばかりだ。

「銃の事とザミエルの事」
・この銃は、マスケット銃……だと思う。父の博物館で見たものと似ている。血まみれの男の側に落ちていた。
・魔弾という弾が装填されていて……??ん?ああもういいや。わかんない。無事に家に着いたらザミエルに聞こう。答えてくれるかわからないけど。

「母さん」
・バイト中に連絡はした。「今日、バイト遅くなりそう」って
 今の時間も……充分遅いが、日付も変わってないしそこまで心配する必要はないだろう。
・人を殺したこと、銃を所持したこと……さすがに言えない。言えるわけがない。知られたくない。悲しませたくない。これ以上の苦労もかけたくない。

もし母さんが知ったらどうする???

母さん、自殺するかもしれない。俺をちゃんと警察に行かせた後、俺に黙って、どっかに行って、1人寂しくどこかで死に絶えているかもしれない。
俺に手紙だけ書き残してさ……………嫌だ。そんなの俺が耐えられない。母さんは死んで欲しくないし、いつまでも笑っていて欲しい。こんな俺の事で思い詰めて欲しくない。。。

ふと横を見ると、すごくやつれた顔をした深い緑の瞳と癖の強いクシャクシャな黒髪が特徴的な人がいた。__俺だ。乗降口のガラスに映った自分であった。

(うわっ。こんな顔、母さんに見せられない。なんてひどい顔してるんだよ俺。。。)

何度も泣きそうなのを堪えてたからか、目は赤く充血しているし、なんか表情が怖い。そこには、普段の人当たりの良い好青年な俺とは思えない顔があった。酔っ払いから殴られて腫れている頬が痛々しさを強調させもうなんか見てられない。

「ヒック。おい、なぁ、にいちゃん。何隠してるんだ?」

酒瓶片手にヨレヨレのスーツを着た小太りなおっさんがいつの間にか俺の目の前にいた。

「あっ。いえ。……その、えっと………」

どうしようどうしようどうしよう。えっ。あ。なんて言えばいいんだ?わからない………あぁもうだめだ俺。突然の事すぎて頭真っ白だ。

「おいおい兄ちゃん、はっきり喋れよぉ〜。ック、これだから最近の若者はよぉ…」

………はぁああ????ふざけんなよ酔っ払い!!何でもかんでも最近の若者はよぉ!って言って、クソつまんねぇ自分語りしやがって。今日なんか俺の頬殴って来るしさ、それに。卓上調味料散乱させるし、会話にならないし、店の中で寝るし、本当マジふざけんなよ酔っ払い!!!

……ん?「自分語りして、会話にならない……???」
それに気づいた俺、ちょっと好機が見えてきた。一か八かやってみる。

「いやぁ。俺、最近の若者なんでわかんないんすよぉ〜、ってかそれよりスーツめちゃくちゃ似合っててカッコいいっすね!THE大人な魅力って感じ凄いっす!!!」

そう言って俺は、にこやかに、爽やかに、精一杯の笑顔とグッドサインを作った。

「おっ。そうか。へへっ。こう見えてセンスには自信があってだな………」

っしゃあああ!!!!おじさんの様わからない自慢話キタァああああ!!!
どうだみたか、この必殺「By the way!」…強制話題転換を!!!
余すことなく満足するまで語りやがれおっさん、そしてもう俺に興味は持つな!!!

俺は、おじさんの話を聞き流しながら、電車のアナウンスに耳を傾けた。
………次の駅が俺の家の最寄駅、シヴィックセンター前か…もうそんなに時間経ってたのか。。。

俺は、酔っぱらいのおっさんと適当に別れをつげ、駅から降りた。
もちろん。最新の注意を払って、ジャケットから銃が出ない様に気を配りながら。

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ナショナルシティよりかは治安が良く、点々と街頭やビルからの明かりが地面を照らす街並みを俺は駆け足で進む。

銃を所持しているのが見つからない様、これ以上人から声が掛けられない様に、そそくさと進む。

アパートが見えてきた、色褪せた肌色の様な色をした2階建ての小さくて古いアパートだ。この高層ビルが立ち並ぶシヴィックセンター周辺には相応しくない外見の、建てられてから何年も経つ家賃も安いボロアパートに俺は母と2人で住んでいる。

アパートの入り口はメイン通り沿いにあるが、俺は通り過ぎ、アパートの裏へ回った。

アパートの裏には植え込みがあり、ちょっとした茂みとなっている。その茂みの影へ俺は銃を隠した。ジャケットに包まれているからか、闇夜に混じりぱっと見じゃわかんない。

人気も無かった。ラッキーだった。

銃を持ったまま家に入ったら、母に気づかれる気がした。だから一旦銃は隠し、夜にこっそり取りに行くことに決めた。

何事もなかったかの様に俺は、植え込みから離れ、階段を登り、ポケットから鍵を取り出しクルッと回した。

ドアノブに手をかけ、開く前に思いっきり息を吸い吐き出す。

覚悟を決め、俺は一歩前に踏み出した。

「ただいま」

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