男の足首から血がジワァと滲み広がる。痛みで悶え苦しそうな傷。
しかしそいつはピクリとも動かない……
俺の前後には2体の死体。
1人は全身血まみれの。もう1人は俺が殺した右足首以外とても綺麗な死体。
血の香りが鼻腔をくすぐり、この夜の静寂が現状の悲惨さをより際立たせた……
「カシャン」とこの状況を作り出した長い金属の塊を地面に落とし、俺はポケットからスマホを取り出した。
「あっ。うっ…けぇっ………けいさつ、警察呼ばなきゃ」
指が震えて上手く操作ができない。何度もスマホを落としそうになり、ようやく通話ボタンまでたどり着いた。そして気づいてしまった。
……俺は何て説明すれば良いんだ?
襲われそうになったので、威嚇のつもりで太ももを撃ったら人が死んでしまいました!
使った銃はそこに落ちてた骨董品…およそ18世紀頃に使われたマスケット銃です!!!
いや。バカにしてんのか?
冗談か酔っぱらいか薬中の電話だろうとあしらわれるだろう。
もしあしらわれず本当に警察が来た場合どうする?
この状況をそのまま説明してわかって貰えるのか?……無理だろ。当事者の俺も良くわかんねぇもん。。。
落ち着いて整理しよう。俺は一旦あたりを見回してから考えた。
この銃は拾ったものだ。人気のない路地裏。目撃者は…居なさそう……目の前にはどう見ても不審な遺体が2つ……俺がやったという証拠を残さなければ………俺は、今まで通り普通の高校生で居られる……!!?
俺はスマホの画面で遺体を照らしながら、先ほど落とした銃に手を伸ばした。
「ザミエル…?だっけ?あのさ。聞きたいことがあるんだけど話せる?そもそも俺の声聞こえてる??」
「あぁ。聞こえてる。だが質問に答える前に一言お前に言いたい。いきなり銃を落とすな。もっと大切に扱え」
「えっ。あっ。ごめん。」
反射的に俺は謝ってしまった。謝罪して欲しいのは俺の方だクソ野郎。ザミエルの声が脳内に響き渡る……
「それで聞きたいことはなんだ?」
「俺がこの引き金を引いたとき発砲音鳴らなかったんだけど、弾丸はどうなってるの?」
「弾丸は対象の魂を奪って消失した」
「…魂を…奪う???」
「そうだ。お前が撃った弾はこの男に当たり、この男の魂を奪った。奪った魂は弾丸と共にこの世から消えた。だからこの男は死んだ」
「……ッッ」
どうしよう………俺は。想像以上に残酷なことをしてしまったのかもしれない。
驚きと共に歪んだ表情にザミエルは気づいたのか冷酷に俺に事実を突き付けてきた。
「俺はお前に7発の魔弾を与えた。魔弾は必中し、対象の魂を奪う。どこを狙おうが関係ない。お前が撃ちたいと願い、この銃の引き金を引く。そうしたら魔弾はお前が狙った場所に必ず飛んでいく。そして対象の魂を奪って消える」
「えっ? あ。っおれが……撃ちたいと願った??」
「ああ。足首に当たれと願っただろう? 俺はそれを叶えた」
ふざけるなよ。俺が撃ちたいと願うはずないだろう? 俺はそれを叶えただって?なんでそんな風に言えるんだよ。なんで人が死んだのに淡々としてるんだよ。
「……ふざけんな」
上手く発せなかった言葉を覆い被すかの様に、俺の口から感情が音になって溢れ出てきた。
「ふっ…ざけんな!!! 死ぬなんて!魂を奪うなんて知らなかったら俺は撃たなかった!!!撃ちたいとなんて願わなかった!!!!」
「…………お前は、殺す意思を……なんの覚悟も持たずに引き金を引いたのか?」
冷たくて気味の悪い声なのは変わらないが、先程より、深く、鋭く、怒ったかの様な声が脳内に轟いた。
「……ッッうぅっ。でも、だって……」
………すごく頭がくらくらする。言葉が出て来ない。正論だ……ザミエルの言い分は正しい。相手の命を奪うことができる狂気を振り回しといて、「殺すつもりはなかった」なんて都合の良い言い訳だ。
涙が溢れて来ない様に、何かが溢れて崩れ落ちてしまわない様に、俺はぎゅっと銃を握り締めた。
つくづく俺は情けない。
「あー。感傷に浸るのを止めたいわけではないが、お前は別に用があって俺に話しかけたのだろう? それで?お前は何をしようとしたんだ」
ザミエルに言われてハッと気づく。そうだ。今はそんな時間はない。
人が来る前にここから離れなければ…ギャングの仲間が来るのも、通行人に目撃されるのもゴメンだ。
「この銃……お前を家に持って帰ろうと思うんだけど。バラせる?」
「バラせない」
「小さくなったりは……」
「しない」
「それじゃぁ………」
そう言って俺は、2つの死体の前に近づいて行った___
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「クソッ。どうしてこんな古い銃なんだよ」
俺は今、ナショナルシティのトロリー駅「8th Street Station」に向かって歩いている。
先ほどの事件の凶器……マスケット銃がジャケットからはみ出ない様に気をつけながら夜の街を早歩きでかける。
人通りが少ない道を選んで歩こうとしたが、逆に怖く、銃がジャケットからはみ出ない様に慎重に歩くと、道行く人が俺を見ている様な気がして、気が気でならなかった。
マスケット銃を包んでいるこのジャケットは、俺が撃ち殺してしまったギャングから奪ったものだ。俺の指紋が付かない様気をつけながら丁寧に剥ぎ取った。
死体から何かを奪うなんてめちゃくちゃ抵抗感があったが、見つかるよりはマシだ。あの場は逃げるしかなかったし、見つからずに家に帰る為には仕方がなかった。
もういやだ。今にも泣いて喚きたい。でもそんな事はできない。
母に心配かけたくない、明日も普段通りの日常を過ごしたいって思いだけで俺は、
「誰にも怪しまれずに帰宅する」という高難易度ミッションに挑むのであった……!!!

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