「おれが引き金を引いたからこいつは動かなくなったーーー。」
人差し指に圧をかける。
たったそれだけで、路地裏の暗がりにいた男は沈黙した。
「な…んで? ただ威嚇するつもりで、おれは……」
俺は、足首を狙ったはずだった。殺すつもりなんてなかった。でも__目の前の男は目を見開いたまま、ぴくりとも動かない。
震える手で握るのは、長い銃身のマスケット銃。今は西暦2025年、現代のアメリカ。
こんな戦争時代の__およそ200年前に使われた時代遅れの骨董品で、1人の命を奪ってしまったんだ。
……バカみたいだろ?
_______________
俺、エイデン・カーターはついさっき1時間程前、夜のナショナルシティを歩いていた。
ははっそんな死体や薬中が転がってる治安の悪いところに夜1人で出歩くなよってか?本当にそれはそう。
俺だっていつもなら、母さんを心配させないよう早く帰るよ。だって俺の家族はもう母しか居ないから、そんな心配になる様な事はできる限りしたくない。
……でも今日は、酒に酔った客が暴れてバイトが思ったより長引いた。
客同士のいざこざに巻き込まれクリーンヒットしてしまった頬が、ツンっと冷たい夜風にあたって痛い。シーンと静まり返った夜の空気が俺の無力さをより誇張してくるようで、俺はちょっと悔しくなった。。。だが、もう少しの辛抱だ。俺は高校を卒業したら、警官になる。父が死んだあの日から、俺はそう決めていた。
俺の父さんは博物館の職員だった。幼い頃、よく展示室に連れてって貰っていた。
歴史に埋もれた武器、戦いの遺物。傍から見たらただの石やよくわからない装置に目を輝かせ、それらを眺める父の目は、いつも誇りに満ちていた。
学校では習わないことを色々教えてくれた父は、俺の憧れだった。でも……
ある日、博物館を襲った強盗によって、父は殺された。
罪のない人が、無慈悲に命を奪われる。そんな世界を、俺は許せなかった。
___パァン!!!
夜の静寂を打ち消すほどの、鼓膜を揺さぶる大きな音がした。
「銃声…? ギャングの抗争か??」
俺は反射的に足を止め、音のする方を覗き込んでしまった。
今思えば、なんですぐ逃げなかったんだろうと後悔している。こんな治安の悪い場所でさ。たまたま父のことを思い出していたからか、もし父の様な人が事件に巻き込まれていると思ったら、動かずにはいられなかった。
「おい、大丈夫…か?」
錆びた鉄の様な血の匂いが辺りを漂う。
薄暗い路地の隅に、何か大きなものが転がっていた。
近づくとそれは人の形をしていた。服の上からでも筋肉がわかるガタイの良い男性の姿だった。
その男性は血のシャワーを浴びた様に、全身が、顔まで真っ赤だった。
ぴちゃぴちゃと地面に池を作る。
「……ッッ!!」
俺は咄嗟に数歩後ろに下がった。カツンと何か足に当たった。
1メートル以上の長さがあり、細身でシンプルながらも、しっかりとした作りの長身の銃がそこに転がっていた。
_マスケット銃だ。
昔。約200年前の、アメリカ独立戦争の時に使われていたと言われている銃で、射撃性能も悪く、弾を1段ずつ込めないと使えないうえ、装填すらも難しい………実戦では使い物にならない時代遅れの骨董品だ。
しかし、とても見覚えのある銃だった。
この銃は、父が昔俺によく話してくれた時の展示品にとても似ていた。
銃身は鉄製で、ストック(銃床)は太く、肩にしっかりと当てて撃つ形状だ。肩に掛けられる様、使い古された革製スリング(肩掛けベルト)がついている。くすんだ深い色合いのウォールナット(クルミ材)が時代を感じさせ、引き金の部分には真鍮の装飾がされてあり、夜の街の微かな光に照らされて鈍く光っていた。
父の笑顔が懐かしくて、つい俺はそのマスケット銃に手を伸ばしてしまった。
ざらりとした木製のグリップが、手のひらを掠める。
銃は片手で持つのが難しい程ずっしりと重く、見た目の重厚感に匹敵するほどだ。加えて、「この銃は俺の命を吸い取ってるんじゃないか?」と思うほど冷たく、俺に異様な存在感を与えてきた。
ちょっと怖くて今にも手放したかったけど、もっとよく見たかった俺は、その銃を両手で持ち、マジマジと見た。
その瞬間。グリップを持つ右手の人差し指に焼ける様な痛みが走り
「……お前に力を貸そう。このザミエル・バレルが7発の魔弾をお前に与えよう。これはお前の目に見える範囲であればどこからでも必ず当たる魔弾だ…好きに使え。」
ぞわり と背筋を這う冷たい声が脳内に響いた。耳で音を捉えるのではなく、頭で音を捉えるのは初めての感覚だった。わけがわからず辺りを見渡していると
「おい、兄ちゃんそこで何して……ってお前!? あの男を殺して銃を奪ったのか?」
背後から、男の声。
振り向くと、黒いジャケットを羽織って真面目そうな格好こそしているが、顔から首元にかけてガッツリ刺青の入ったギャング風な男がひとり、こちらに近づいてきた。
男からはこの血まみれの惨状が見えないのか、ビビることなく真っ直ぐ歩いてくる。
「……へぇ。そりゃぁさぞいいもんってことだろ?」
いや違う。殺してない!と言いたかったが、怖くて声にならなかった。
ギャングは、俺に笑いかける。
「ほら。ボサっとしてないで置いてけよ。あと、バックとポケットの中身もな。」
男の持ってるナイフがチラつく。世界が、今。俺の鼓動音以外の音は無いかの様にドクドクと波打つ。胸が高鳴る。
こんなところで抵抗したら、殺されるって事はわかってっるてのに、俺は父を思い出したその銃をどうしても手放したくなかった。気づけば銃を構えていた。
「は?てめぇやる気かよ!」
男が俺に向かって飛びかかる。
カチッと引き金を引く音が聞こえる。俺は無意識のうちに引き金を引いていたのだ。
銃口から金色の線が男の右足首に向かって真っ直ぐ飛んでいった。
革靴を突き破り、少量の血が飛び散る。
男は、そのまま崩れ落ち、目を開けたまま動かなくなった。
「……は?」
明らかに死んでいる。生気もなく、呼びかけても何の反応もない。
血色のない肌の色も、人じゃなく物になってしまった時の様な異様な雰囲気も、あの時__父の死体を確認させられた時に感じたものと一緒だった……
自分の手を見た。震えが止まらない。
「おれ……殺したのか? 人を殺してしまったのか???」
「そうだ。魔弾は必ず命中し、撃たれたものは決して助からない。」
「先に言えよっ……ふざけるなよ。どうしてくれんだよっ……!!」
シーンと静まる静寂の中、夜の空気よりも冷たい声が俺の脳内を揺さぶる。
「さぁ、契約は結ばれた」
俺、エイデン・カーターはアメリカのそこそこの都心、サンディエゴに住む17歳の高校生
警官志望なのに俺は………今日、法律を2つも破ってしまった。
人を殺してしまったし、18歳未満なのに銃を持ってしまった。
なぁ。俺、詰んでね? これからどうすんだよ。。。

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