「おはよう。ノア」
友人に挨拶したちょうどその時、ピロンとスマホが鳴った。
ロック画面に表示されるアイコンを見て、ドッドッドッド…と心臓がよくわからないテンポを刻み出す。
ソフィアさんからだぁ~!!!
もうアイコンの。このよくわからないグレーの海洋生物がいとおしい。
嬉しすぎて、唇と頬に凄く力が入る。吊りそうなぐらい自然と口角が横に引っ張られる。
やばい。泣きそうではないし涙が出てくる感じもしないのに鼻がジーンとしてきた……!
きっと今猛烈に口が閉じられてるから、この情報過多な現状にどうにかして立ち向かおうと少ない酸素で脳を働かせているせいだ。きっとそうに違いない。。。
うっはぁ!やべぇ…スマホが輝いて見えるぜ!
えっ。どうしよう。通知開いていいのかな?いいんだよね?俺のスマホだよねこれ?やばい。震えて指紋が認証されない……
〈指紋認証に失敗しました〉
〈指紋認証に失敗しました〉
…と。スマホを指先で触れるたびに、ブッブッとバイブ音が鳴る。
ノアがなにか言ってる。すまんが俺は今それどころじゃないんだ……!!っやべ
〈指紋認証に失敗しました。あと、3回間違えると端末が30秒間のロックにかかります〉
年数回も見ないエラーが表示された。
「はぁーーーー」
片手でこめかみを押さえながら天を仰ぐ……ああ。朝日が眩しいや…ようやく息を大きく吸う……日射しに照らされて燻られたような草木の香りと共に、熱が俺の肺まで入ってくる。ああ、朝からなにやってんだろうな……俺。。。
「ねぇ。エイデン…さっきから大丈夫?」
「大丈夫じゃない。もう俺大丈夫じゃない……」
「パスコード覚えてる?」
「…うん。父さんの命日」
「…そっか。打てる?」
「うん…」
スマホを両手で持って、ポチポチと親指で数字を押してく……
あっ、ようやく開いた。
通知画面からメッセージに飛んだ瞬間パッと目に入ってきた文字だけでスマホを落としそうになる……両手で持っていて良かった。
数秒のフリーズを繰り返し、ようやくその文字を文章だと脳が認識する。
「ねぇ…俺、お前っ……お前の姉ちゃんから……おれっ」
「はいはい。大丈夫?ねぇ本当さっきから大丈夫?」
「なにか甘いもの食べに行かない?って……なにか甘いもの食べに行かない?…って!!!」
「あー。。。」
さっきから何度も「なにしてんだろうなぁ…」って言葉を飲み込んできてくれた友人がようやく言葉を失う。
俺は気にせず、このどうにもならない高鳴りを友にぶつける。
「なぁ…これっ。デートだよなぁ!?これ、デートだよなッッ!??」
「……デートかは僕にはわからないけど、君のこと気になってたのは確かだよ」
「……ッ!? 気になってた…!!?恋愛対象として…!!????」
「なわけw なんで僕の姉さんが君を恋愛対象として見るんだよ…」
「待って…やばい。どうしよう。スクショ撮って良い?あ。待ってスマホ落としそう…俺のスマホ持ってスクショ撮っといて欲しい……」
そう言って、ノアの手にスマホを押し付ける。
手から重荷が消えちょっと寂しくなった。
「あ。ポーズとるからちょっと待って…」
「カメラじゃないんだから…スクショで写真は撮れないよ。エイデン」
呆れ顔でスマホを操作しながらノアは言う。手元からカシャッと音が鳴る。
「僕が持っててもしょうがないしスマホは返すよ。……スクショもちゃんと撮っといたから」
スマホを返され、そのまま腕を引きビシッと立たされる。
「ほら、バス見えてきたよ」
バスが到着するまでの数十秒間。俺たちはどうにか息を整え冷静さを取り戻し、何食わぬ顔で、いつも通りバスに乗り込み学校へ行った。
