第33話 デート!端的にいうと最初から崖

「甘いもの食べたいって言ってたので、自分一応調べてきたんですが…」

「ああ!わかるー!!!やっぱりここ気になるよね? へへへっ…考えてること一緒って、ちょっと照れるね」

ああああああああ笑顔が眩しい!!!
母さん…俺もう死んでもいい。耳や首元周辺の、太陽の光に照らされて赤くキラキラと輝く柔らかい髪を、細くふっくらとした指先で摘んでいじりながら見上げてくるその姿に、俺の全細胞がやられた。
もうさっきから負けっぱなしだ。くっそ…その照れはにかみはずるい。反則技だ!

差し出したスマホ画面の提案からの即反応&即カウンターのような技を喰らった俺は、なんとか立ち止まらないように逃げ出さないように不審者にならないように歩き続けてようやく到着したここはケーキ屋。エクストラオーディナリーデザートというケーキ屋。
行ったことなどはないが、存在だけは知っている。
SNSやメディアで流れてくることが多いから、本当に行ったことはないのに、店の雰囲気や商品(ケーキ)とかはなんとなく知ってるという、なんとも不思議なお店。

「ソフィアさんは…ここ、初めてですか?」

「もちろん!行ってみたいなとは思っていたのだけれど、1人で行くのはなんかちょっと勿体なくて、なかなか行く機会が無かったんだぁ……カーター君が提案してくれたから来れたようなお店だよ!」

え???俺の提案でそんなに喜んでるんですか?
え???俺の提案でそんなに喜んでしまっていいんですか?
え???俺のおかげで得たこの笑顔ですか???
え???初めてなんですか???初めてが俺とでいいんですか???
え???………待って?ずるい。色々反則だ。

つい口元に手をやる。にやけて緩んだ口が閉まらない。
様々な疑問が波のように押し寄せては消え、押し寄せては消え、砂浜に幸福だけを残していった。

「緊張するのもわかるけど、ちゃちゃっと入ろ?」

フリーズした俺を動かすために手を引き、店の中に連れて入った。
せっかくソフィアさんから手を繋いでくれたのに、感触とか、温もりとかもうよくわからなかった。俺は、自分の手汗の心配しかできなかった。

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「想像以上にいちごの存在感ハンパない!いちごソースおいしいー♡」

細く繊細な鈍い光を放つフォークがソフィアさんの口に運ばれた瞬間に彼女は目を見開いた。かわいい。驚いた表情も可愛い……じゃない。表情から驚くほど美味しいものなのだろうということが伝わった。綻ぶ表情も可愛い。好き。

可愛いの後に好きって言葉が自然に出てきて戸惑いつつも納得する。
やっぱり俺ソフィアさんのこと好きなんだ…って。いやこんな嬉しそうな顔見せられて嫌なやつ逆に居ないだろ。なんて満足そうな顔なんだ可愛い。非常に可愛い。それに、「んんー!!」って美味しいものを食べた時に溢れる生理現象のような唸り声すら可愛いすぎるんだぞ!!!

ああ、好き。もうずっと見ていたい。俺のケーキなんてどうでもいい。紅茶が冷めても構わない。
彼女にこの幸せを注いでくれたこの空間よありがとう。エクストラオーディナリーデザート最高!

先ほどから俺はソフィアさんから出される情報の10分の1も処理できてない自信がある。
何もせずとも俺の脳の半分を可愛いで埋め尽くし、キャパオーバーにさせるマルウェアのような存在の彼女が急にぴたりと手を止めた。

さっきまでケーキの断面図見せてくれてたり、内容の5分の1も入ってこないノアの話をしてくれていたのに、話すのも動くのも急に止まった。

手を止め無言のまま俺を見ている。俺は不安になる。

おずおずと、彼女は聞いてきた。

「ケーキ…食べないの?」

「あ。や……え? 食べます。ちゃんと食べます……ただちょっと勿体無くて」

「ふふふっ。気持ちはわかるよカーター君、私も先ほどショーウィンドウに並ぶケーキたちを見て、本当に薔薇の花散ってるんだ……って感動したもの。1品1品が美術館に飾れるぐらい綺麗だよね」

いや、その時もソフィアさんの横顔の方が綺麗でしたよ!!
ショーウィンドウを眺めながら感嘆とした息を漏らして悩みに悩んでるその姿以上に可愛いものはありませんでしたが!?
……でもまぁ、そうですね。ソフィアさんの言いたいことはわかります。ケーキも綺麗で食べるの勿体無いんですけれど、ケーキを食べ終えてしまったらソフィアさんの姿をまじまじと正面から見られる権利を失ってしまいそうで…食べたくないんですよ。

声にならない俺の声はこう告げていた。
現実的に伝えられた声はこうだった。

「…はい、とても綺麗で……俺、どうしていいのかわかんない。」

なんて情けない回答だろうか。ああ恥ずかしい…いやカッコ悪い。
ほら口元に手を当ててふふふってソフィアさんめっちゃ笑ってんじゃん。
くっそぉ…可愛いな。こんな上品な笑い声はずるい。俺の恥ずかしさなどソフィアさんの魅力で悠々と上書きしてくるようだった。

「写真撮ってもいいんじゃない?」

ソフィアさんはそう促してきた。
今、思い出したけどそう言えばケーキ届いた瞬間にソフィアさんスマホを取り出してパシャパシャ音鳴らしてたや……見惚れてて気づかなかった。

ケーキにピントがあわなかった。ソフィアさんにピントがあってしまった。
ケーキを撮るフリして何枚かソフィアさんをスマホに収めた。

「撮れた写真見せてよ!送って?」って言われたから、何かしらの理由をつけて慌ててケーキの写真も撮った。

…明らかにこれ、盗撮だよな?あとでノアに謝っとこう…

流石に本人には言えない。でも黙ってるのも申し訳ない。
だからこの気持ちごとノアに押しつけることにした。

すまない、親友!だが「Bro don’t meltdown.」って送ってくるお前もどうかと思うぞ?