第32話 本気にしちゃダメ…だよ?

「お待たせ! 待たせちゃってごめんね〜!」

「いえ、俺も今来たところです」

なるべく口角を上げて答える。
どう力を入れていいのかわからないから、ちょっと引きつってるかもしれないし、この愛おしさが爆発している存在にどう俺の脳は対処していいのかわからず、目に自然と力が入る。瞬きすらできない。木々の鮮やかな緑のコントラストを受け、一際存在が際立っていたソフィアさんから俺はもう目が離せない。

アイボリーのレースブラウスは少し透け感があって、袖ぐちがふんわりとしてて、手、触れたい…そのフリフリに触りたい……!!ってなるし、
くすんだピンクのフレアスカートの丈は長く、ひらひらと揺れるのがすっごく可愛いし、こんな大人っぽいスカートなのにすっごく可愛いのずるいし、
髪の色と合ってて、艶やかなサラサラの髪も同時に目で追ってしまうし、
ベージュのパンプスも可愛いし、ヒール低めだけど、いつもより目線が高く顔が近いし、ベージュで靴と足の境界線がボケてるからか足長く見えるし、顔可愛いし、顔可愛いし、本当に顔可愛いし、さっきふっと近づいた時にいい匂いしたし、淡いピアスが揺れててつい目を追っちゃうし、いつものポニテ姿も元気なお姉さんらしさがあってめちゃくちゃ好きなのだけれど、今日はハーフアップで大人なお姉さんって感じで可愛いし……え???待って???俺はどこを見ればいいの???
うわっ、まつ毛長い…なんか肌に描いてるのすごい。。。

視覚から…いや、五感から入ってくる「ソフィアさん!!!」という情報が素晴らしすぎて、俺。もう、このままソフィアさんの情報だけで脳埋め尽くしたい……

「ねぇ、すごい…視線を感じるんだけど……どこか、おかしかったりする?」

「…!! あ、いや…えっと、、、すみません!!!」

めっちゃ目が泳いだ。言葉も出ず耐えきれなくなって、咄嗟に顔をそらした。
このままじゃまずいだろと思った俺は、目線を合わせぬまま「…見惚れてました」と正直に答えた。
カッスカスの声だったから、ソフィアさんまで届いたかわからない。

「ふふっ」という笑い声を聞いた後俺はとんでもない発言を聞いた。

「じゃぁ、これからも…たくさん見惚れてくれない?」

マジか…と思い、顔をガバッと上げる。
その時、着信が鳴った。聞き慣れたメロディと共にスマホが震える。
通話ボタンを押し、端末を耳に当てる。

「本気にするなよエイデン、姉さんは意外と適当なんだからな!」

一言。そう、一言だけ聞こえ、ガチャっと電話は切られた。

「ツーツーツー」と無機質な音が耳元で鳴り響く。

「ッ……っすぅーーーはぁ………」

額を抑えながら肩を上下させ盛大な深呼吸…というかため息をする。
予想はしてた。予想はしてたけど、おま…ふざけんなよノア。。。どこにいるんだよ……
咄嗟に周囲を見渡す。それらしき人影はどこにもいない。

「……あ、あーー。。。ノアから?」
苦笑いしながら、ソフィアさんは様子を伺う様に尋ねてきた。
口元歪んでても可愛いな。「あー」って言葉探してる声も可愛いんだよちくしょう。

「……はい。」

「……なんか言ってた?」

「姉さんは適当だから本気にするな…って」

「あぁーー…」

そう言って、ソフィアさんは苦笑いしながら目を泳がせた。傾げる首の角度も、V字に歪む口元も、それに釣られて揺れるピアスにも目が奪われる。

言葉を探し終わったソフィアさんの口が開いた。

「今回ばかりは、ノアが正しいかも」

「え? それってどういう……」
意図を読み取れず聞き返した、俺の疑問を遮ってより大きな爆弾が落とされる。

「カーター君も、いつもと雰囲気違ってズルいからちょっと仕返し」

ピンクの淡く艶やかな口元に、真っ直ぐに伸びた人差し指を当て、しぃーと内緒話をする様なポーズで子供っぽい悪戯っ子の様な笑みを浮かべてソフィアさんはそう答えた。

これで、落ちないわけがない。俺は完全に落ちた。
今この一瞬を、俺は脳裏に刻みつけたかった。

「本気にしちゃだめだよ? エイデン」と弟のように、諭すように言われたが、俺には届かなかった。

……いや、届かないことにしたかった。
それだけその笑顔と言葉は破壊的だったのだ。俺にはどうしようもない。

シャァァァと降り注ぐ噴水の音と、それにより漂う冷たい風が、
俺を突き放す様に、この場に留めるかの様に、この瞬間を支配していた。